産後腰痛の原因と姿勢との関係

出産を終え、多くの女性が「腰痛」に悩まれています。
「抱っこしていると腰がズキッと痛む」
「おむつ替えや授乳で前かがみの姿勢がつらい」
「横になるのも、起き上がるのも一苦労…」
このような症状を経験している産後ママは少なくありません。
実際に、出産を経験した女性の50〜60%以上が何らかの腰痛を感じているという報告もあります。
しかしながら、痛みがあっても「産後だから仕方ない」「時間が経てば治る」と考えて放置してしまうケースが多いのが現状です。
赤ちゃん中心の生活の中で、自分の身体のケアは後回しになりがちですが、産後の腰痛を放置すると慢性化し、将来的な健康にも影響を及ぼす恐れがあります。
産後の腰痛の主な原因

産後の腰痛は、単なる筋肉の張りや疲れではなく、妊娠・出産に伴う体の根本的な変化によって引き起こされます。ここでは、3つの主な要因について解説します。
気になる方はこちらも参考にしてみてください。>>【要注意】妊娠に伴う姿勢の変化と産後のリスクについて
1. ホルモンの影響:関節が緩む
妊娠中は、体内で「リラキシン」「エストロゲン」「プロゲステロン」といったホルモンの分泌が増加します。これらのホルモンは、出産を行うために関節や靭帯を緩める働きがあります。
とくに「リラキシン」は、恥骨結合や仙腸関節など骨盤周囲の関節を緩め、骨盤が開きやすくなるように作用しています。しかしこの緩みは腰や骨盤の安定性を低下させる要因にもなるため、産後も関節が不安定な状態となっているため腰痛の原因になります。
骨盤は体の土台ですので、この部分が不安定になることで、周囲の筋肉は姿勢を保つために過剰に緊張しやすくなります。不安定となった骨盤の関節(仙腸関節など)に痛みが出ることもあります。ホルモンの影響により、このような構造的な不安定性に基づく痛みが出やすくなります。
2. 姿勢の変化:妊娠後期からの影響
妊娠中は胎児の成長によりお腹が大きくなり、身体の重心が前方に移動します。その結果、以下のような姿勢変化が起こります
- 腰椎の前弯(反り腰)が強くなる
- 骨盤が前傾し、仙腸関節に負担がかかる
- 頭部が前に出て、猫背や巻き肩になりやすくなる

このような姿勢が長期間続くことで、腰部や骨盤周囲の筋肉・関節に慢性的なストレスがかかります。
産後においても、このような妊娠後期の姿勢変化が継続して見られる場合があります。
また、出産後の生活の中で抱っこや授乳、おむつ替えといった前屈みの姿勢や反り腰姿勢が続きやすく、不良姿勢を助長しています。
これらは、下記に記載している筋肉の影響もありますが、右側でばかりでの抱っこや、赤ちゃんの左側ばかりで寝る就寝姿勢など、片側に偏った姿勢を継続して取ってしまうのも原因の一つになります。
このような偏った姿勢をとることで、左右で骨盤の高さが違う、背骨が曲がってくるなど、骨盤や背骨の歪みにつながってきます。
3. 筋力低下:体幹の安定性低下
妊娠中は腹部が大きくなることでお腹の前にある「腹直筋」が引き伸ばされ、筋力が低下してしまいます。特に出産後は腹直筋が外へ伸びてしまい、腹筋の中央が割れてしまう「腹直筋離開(ふくちょくきんりかい)」と呼ばれる状態になることがあり、体幹の支えが弱くなり、腰にかかる負担が大きくなります。
さらに、お腹の下腹部にある「腹横筋」も伸ばされるため、さらに骨盤や体幹の安定性が低下してしまいます。
出産に伴い骨盤底筋群もダメージを受けるため、体幹を支える多くの筋肉が機能低下した状態になるため、姿勢悪化などを招き、産後腰痛を悪化させる大きな要因となっています。
放置するとどうなる?腰痛がもたらすリスクとは
「痛いけど育児でそれどころではない」
「きっとそのうち治るはず」 このように腰痛を我慢している方は多くいらっしゃいます。
しかし、産後の腰痛を放置することには、思った以上に深刻なリスクにつながることがあります。
1. 慢性腰痛・再発のリスクが高まる
妊娠中から腰痛があった方は、産後もその痛みが残る傾向があり、10人に1人以上が1年経っても痛みが改善しないとも報告されています。 また、産後に発症した腰痛は、そのまま慢性化するケースが多く、次の妊娠時にも再発する可能性が高いことがわかっています。
産後の腰痛の主な原因は、上記にあるホルモンや姿勢、筋力低下に関係しています。
ホルモンに関しては、産後6ヶ月までは「リラキシン」の影響などで、ある程度関節の柔軟性もある状態ですが、その後は分泌が減り、元の関節の硬さに戻っていきます。骨盤が広がった状態で固まってしまうことで、将来的に腰痛が継続するリスクもあるため、産後1〜6ヶ月ほどを目安に骨盤などのケアが勧められます。
さらに、骨盤の不安定性や腹筋機能の低下が改善されないままだと、腰椎や仙腸関節に過剰な負荷がかかり続け、椎間板ヘルニアや仙腸関節障害などの構造的なトラブルを引き起こすリスクも考えられます。
2. 育児・家事への影響:ストレス
授乳やおむつ替えは1日に何度も行い、抱っこや寝かしつけでは長時間同じ姿勢になることもあります。
腰痛があっても育児に関する動作は必ず必要になるため、無理をされている方が殆どです。
痛みのある中で、身体な負担も大きい育児動作が繰り返されることで、さらなる腰痛悪化だけでなく、精神的なストレスも増えることがあります。
腰・骨盤痛を経験した妊婦では、その後の妊娠でも再発症する可能性が高いため、以降の妊娠を断念する傾向があるという報告もあります。
それほどに、産後の腰痛は身体的にも精神的にもストレスや負担がかかってくるものになります。
3. 産後うつとの関連性
「産後の腰痛」と「メンタルヘルス」との間には密接な関係があり、骨盤帯痛(PGP)は妊娠中のうつ病と、腰痛(PLBP)は産後うつと関連が深いという報告があります。
精神的なストレスは、より痛みの感じ方を強くするという悪循環が生まれやすくなります。
特に産後は育児の中で、
・まとまった睡眠時間が確保できない。
・疲れていても休めない。
・痛みで寝れない。
・辛さを共感できない。
など、様々な精神的ストレスを悪化させる要因があります。
腰痛の予防・改善方法
産後の腰痛に対するケアは、身体の回復に合わせて徐々に行うことが大切になります。
普段のケアだけでなく、骨盤ベルトや授乳クッションなどを使うことも重要です。
単に産後腰痛といっても、痛みの場所や強さは人により変わります。
それぞれの人に合ったケアが重要ですが、ここでは一般的なケア方法についてご紹介します。
ストレッチ
①ハムストリングスストレッチ
ハムストリングスの硬さは骨盤の角度に影響するため、ストレッチをしていきます。

椅子に座り片脚を伸ばしたまま、ゆっくりと骨盤から上体を倒していきます。
太ももの裏の筋肉を伸ばしていきます。
②脊柱起立筋ストレッチ
妊娠中から反り腰傾向の姿勢をとることで、脊柱起立筋は短縮しやすくなります。
産後は、腹筋群の機能低下もあり、腰の筋肉には負担がかかってくるため、ストレッチをして柔軟性を高めていきます。

仰向けの姿勢で、ゆっくりと膝を抱えながら背中を丸めます。
背中から腰の筋肉を伸ばしていきます。
③腸腰筋ストレッチ
腸腰筋が硬いと、骨盤が前傾しやすく、反り腰傾向の姿勢を取りやすくなります。腸腰筋は腰の安定性にも関係する重要な筋肉になります。

片膝立ちになり、片脚を大きく前方に出します。
骨盤を前方に移動させながら、膝をついた脚の股関節前面を伸ばしていきます。
④ストレッチポール
猫背や反り腰、育児姿勢で背骨にかかる負担を軽減するために、ストレッチポールがお勧めです。
できる限り脱力した状態で行ってください。

ストレッチポールにお尻から頭までが乗るように寝ます。脚は肩幅に開き、膝は90°適度に曲げ、手のひらを上にして、腕は軽く開きます。
腰部痛がある場合や、自宅にポールがない場合はバスタオルなどを丸めて代用してください。
筋力トレーニング
①腹式呼吸
特に横隔膜を意識して腹式呼吸を行います。産後の、お腹の腹腔内圧を正常化し、腰の安定性を徐々に高めていくために行います。
産後早期からでも、徐々に始められる運動になります。
仰向けや、座った姿勢で、ゆっくりと鼻から息を吸い込み、お腹を膨らませます。その後、ゆっくりと口から息を吐きだします。お腹を膨らませるようにしますが、肋骨をしっかりと広げていくように意識すると、より効果的に横隔膜に刺激を与えることができます。
②腹横筋トレーニング(ドローイン)
お腹が大きくなり、働きにくくなった腹筋群のトレーニングとして、産後のお母さんの体調に合わせて開始していく運動になります。
腹横筋は下っ腹に当たる場所にある筋肉で、骨盤や体幹の安定性関わる非常に重要な筋肉になります。
特に開いた骨盤を締めるために重要になるため、必要なトレーニングになります。

仰向けで膝を立て、お腹を凹ませるように下腹部に力を入れ、数秒間凹ました状態をキープします。主に腹横筋を収縮させますが、多裂筋も収縮させられます。
③骨盤底筋トレーニング
出産によりダメージの加わった骨盤底筋のトレーニングも徐々に開始していきます。将来的な臓器脱や尿漏れなどの予防に向けても重要になる筋肉になるので、トレーニングが勧められます。
仰向けの姿勢のまま肛門、尿道、膣全体を締め、陰部全体を頭の方へ引き上げるように力を入れます。
その後力を抜きリラックし、「締める」と「リラックス」を繰り返します。
サポートアイテム
①骨盤ベルト

産後は骨盤が開いき不安定な状態にあります。骨盤ベルトを使い、骨盤を安定させつつ、徐々に開いた骨盤を締めるように使用してください。
ポイントは、骨盤の後ろから、前に向かって閉めていくことです。
特に、上前腸骨棘(ASIS)と呼ばれる、骨盤前方の出っ張った部分に合わせてベルトを巻くようにしてください。
特に産後早期はベルトに頼るのはいいですが、依存を避けるために、活動時のみ使用し、就寝時などは外してください。
皮膚トラブルの原因や、体幹の筋力低下に繋がってしまいます。
必ず体幹トレーニングと併用することをお勧めします。
②授乳クッション

授乳姿勢は、どうしても体が丸まり、前屈みの姿勢になってしまいます。
それが原因で腰や方周りの痛み、不良姿勢を助長することとなるため、授乳クッションを使用し赤ちゃんの高さを調整することで、前屈みの姿勢を軽減できます。
お母さんの体格や椅子などの高さに合わせ、タオルなどで高さを微調整することをお勧めします。
③抱っこ紐

長時間の抱っこは腰や肩などに負担をかけてしまいます。
特に、左右のどちらか一方に偏って抱っこをされる方が多くいらっしゃいます。いわゆる「抱き癖」のようなものです。
片方に偏ると、姿勢の歪みなどを助長し、体にかかるストレスも偏ってしまうため注意が必要です。
抱っこ紐を使用し、肩ストラップだけでなく、ウエストベルトを締めることで、腰を支えられ、左右への偏りも軽減できるため、お勧めです。
環境調整
①寝る位置
添い寝をされる際や、両親の間に赤ちゃんが寝る場合など、いつも決まった位置で寝ていませんか?
赤ちゃんがいる方向ばかりを向いて寝ることで、偏った就寝姿勢を続けることになります。
左ばかりでなく、たまには赤ちゃんの右側で寝るなど工夫してみてください。
実は、赤ちゃんの成長の上でも、片方ばかりでないほうが良かったりもします。
②オムツ交換
オムツ交換を床でされる場合は、どうしても前屈みの姿勢になってしまいます。
できれば、ベビーベッドやおむつ交換台など、膝立ちや立った状態でオムツが変えられる環境が推奨されます。
床で行う場合も、あぐらや片膝を立てるなど、前屈みの姿勢が少なくなるように注意されると、腰への負担軽減につながります。
③沐浴
沐浴の際も、中腰や前屈み姿勢になりやすいため注意が必要です。
可能であれば、テーブルや安定した台の上にベビーバスを設置し、中腰姿勢を避けるように工夫してみてください。
運動
①ウォーキング
最も安全に始められる有酸素運動のため、推奨されています。産後約1ヶ月程度経過し、お母さんの体調の回復に合わせて行ってください。
心肺機能や体力の回復、体重管理などの身体的な機能改善だけでなく、産後うつなどのメンタルヘルスの予防・改善などにとっても効果が期待できます。
体調の良い日に短い時間や距離から開始し、徐々に時間・距離を伸ばしていきます。
ベビーカーを押しながらでも可能で、始めやすい有酸素運動になります。
まとめ
今回は、産後腰痛の原因と姿勢との関係について解説しました。
産後の腰痛のには「リラキシン」などのホルモンの影響や、妊娠中からの姿勢の影響、筋力低下などの要因が重なることで起こってきます。
「そのうち治る」と放置することで、腰痛の慢性化や再発のリスクが高くなり、産後うつなど精神的な不調につながることもあります。
育児や体力の回復に合わせて、ストレッチや筋力トレーニングを産後1か月程度の時期から、徐々に開始してみてください。骨盤ベルトや授乳クッション、抱っこ紐などのサポートアイテムを活用しつつ、育児環境を調整することで、腰痛リスクを減らすことができます。
E-Reha(イーリハ)では、運動器認定理学療法士が、姿勢や身体の状態を詳細に評価し、産後の腰痛や肩こりに対して、個別性のある施術やセルフケアの提案などを行なっています。
マッサージなどでの一時的対応ではなく、産後の腰痛改善には筋力や姿勢の改善が重要になります。産後の腰痛や姿勢不良などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
E-Reha(イーリハ)
〒880-0844 宮崎県宮崎市柳丸町153-1 パティオ柳丸D2-1
宮崎市のリハビリ整体院、ゴルフ整体院
参考文献
1)森野佐芳梨:正常妊娠における姿勢・歩行の変化.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 60(7): 560-565, 2023.
2)山崎愛美:産後の骨盤底(ペリネ)ケア.ペリネイタルケア 42(3): 244-248, 2023.
3)瀬戸景子:姿勢・骨盤のアセスメント.ペリネイタルケア 42(3): 224-229, 2023.
4)佐藤史弥, 高雄由美子:周産期の腰骨盤痛 : 機序から診断・治療まで.ペインクリニック 44(2): 148-155, 2023.
5)大沼賢洋:骨盤底機能障害について (骨盤底筋群の評価・アプローチおよび姿勢による影響).静岡理学療法ジャーナル (48): 1-5, 2024.
FAQコーナー
Q1. 産後の腰痛は、いつまで続きますか?
A. 個人差が大きいですが、一般的に体の回復が進む産後6ヶ月~1年ほどで軽快する方が多いです。しかし、適切なケアをしないと痛みが慢性化し、数年後も痛みが続くケースもあります。将来的な腰痛リスクにもつながるため、骨盤が安定してくる産後6ヶ月頃までが特に大切なケア期間になります。
Q2. 帝王切開で出産しましたが、それでも産後腰痛になりますか?
A: はい、帝王切開でも産後腰痛になる可能性は十分にあります。産道を通る際のダメージはなくても、妊娠期間中のホルモンの影響(リラキシン)による骨盤の緩みや、大きなお腹を支えていたことによる姿勢の変化、腹筋の筋力低下は共通して起こる変化になるため、分娩方法に関わらず腰痛のリスクは高くなります。
Q: 授乳中の姿勢で、気をつけるポイントはありますか?
A: 猫背や前かがみにならないよう、授乳クッションなどを活用して赤ちゃんの高さを調整することがとても重要です。繰り返し行う姿勢になるため、少しでも体の負担が減るように、工夫していくことが重要になります。
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